「美味しいものは、ずっと続く」。
新潟麦酒が世界につなぐ
ビール文化の可能性
醸造を担うのは、新潟麦酒。日本で初めて後ろ盾のない"個人醸造所"として「瓶内発酵・熟成」の安定製造を実現した、クラフトビール業界のパイオニアだ。今回、KOBUSHI BEERの醸造パートナーである新潟麦酒・宇佐美社長に、本物のビール作りについて話を伺った。
30年前から続く、本物への探究心
宇佐美社長がビール製造を始めたのは、約30年前。地ビールブームが始まった直後のことだった。当時は全国でも数十社しかなかった時代で、個人での申請は初めてのケースだったという。税務署も対応に困り、1年以上放置されたそうだ。
個人醸造所として免許を取得するという、前例のない挑戦。それは、本物のビールを追求したいという純粋な探究心から始まった。
では、なぜ新潟麦酒は30年以上続けてこられたのか。宇佐美社長は「自分で考えてプラントを作ったから。人に言われるままオーダーして揃えたか、その差は大きいと思います」と語る。
「雑菌ゼロ」という挑戦
宇佐美社長が取り組んできたなかで、大きな転機となったのが、徹底した品質管理による「雑菌ゼロ」の実現である。
ある時、クラフトビールの選定を依頼され、製造能力のあるメーカーにサンプルを依頼した。その結果は、衝撃的だった。「味が変質しなかったビールは、ほとんどなかった。ゼロに近いです」。ほぼ全てに雑菌が混入していた。これは、クラフトビール業界の現実だった。
なぜ、これほどまでに雑菌が入ってしまうのか。「多くが作り方に問題があるんですよ。菌が空気中や手に存在することすら理解していないところも多かった」と宇佐美社長は語る。衛生管理の知識がないまま、コンサルタントに言われた通りに設備を導入し、製造している企業が多かったという。
雑菌が入ると、どうなるのか。「2週間で酸味が出てくる。冷蔵庫に入れても1ヶ月も持たない。最後は腐敗臭がします」。一般的にビールを飲んで酸っぱいと感じたら、それは雑菌が繁殖している証拠だ。
「瓶内発酵」という選択
新潟麦酒は「瓶内発酵」という製法を採用している。瓶詰めしてからも、中で酵母が元気に働き続ける製法だ。
「ドイツやベルギーで古くから行われている製造方法です。熱殺菌も濾過も炭酸注入もしない」と宇佐美社長。きれいに醗酵できていれば、常温で2〜3年は持つ。最長では5年間保存したビールもあるという。
しかし、瓶内発酵は難しい。安定的に何百本も製造するのは極めて困難だ。過発酵を防ぐには、完成形の糖分を残して瓶内発酵させる必要がある。これを失敗すると、最悪の場合は瓶が破裂してしまう。
実際、オーストラリアに行った時、取引先を回ると必ず「このビールは大丈夫なのか」と聞かれたという。以前、あるブルワリーのビールが、ほとんど過発酵で破裂してしまったそうだ。別の店では、10本開けて、グラス2杯分しか注げなかったこともあったという。
では、なぜそこまでリスクのある製法を選んだのか。宇佐美社長の答えはシンプルだ。「本物を作りたかったから」。
現在、新潟麦酒では200種類以上のビールを製造している。全国の有名ご当地ビールも手がけており、週刊誌が選んだ面白いビール10種類のうち、6〜7種類が新潟麦酒製だったこともある。
本物を作るための、
妥協しないこだわり
原料についても、妥協しない。「麦芽もホップも、輸入品を使用しています」と宇佐美社長は言う。
国産ではないのか、という問いに、こう答える。「国産イコール、原料として最高品質とは限りません。品質は良く見極める必要がある」。
以前、耕作放棄地対策でビール麦を作るプロジェクトに参加したことがあった。県や大学と一緒に始めたが、結局うまくいかなかった。「種を蒔くところから、全部やりましたよ。コンバインも買いました。でも、結論は明確でした。海外から仕入れる方が、品質が良かった」。
もちろん国産にも良質な麦芽はある。しかし耳障りの良い「国産」を漠然と使用するよりも、本当に美味しいものを作る。それが、新潟麦酒の哲学だ。シンプル・イズ・ベスト。それが、新潟麦酒の変わらぬ姿勢だ。
世界が認めた技術
新潟麦酒はウイスキー事業でも国際的な評価を得ている。「ロンドンとサンフランシスコのコンペティションで、ダブルゴールドなど金賞以上を獲得しています」と宇佐美社長は語る。初出品のサンフランシスコでゴールドを獲得し、フォーブス誌に記事が掲載されたこともある。
「アメリカからコンテナ2本分、約2万本の注文が来ています。これだけのオーダーが来る会社は、ほとんどありません」。
実際、海外に輸出できるクラフトビールは少ない。300〜400社まで増えた時期に、輸出業者から「これだけ増えても、海外に持っていけるのはおそらく片手で数えられる程度です」と言われたという。品質に問題があると、輸送途中で味が変わってしまうからだ。
そして今、その技術が渋谷のクラフトビール文化と出会い、KOBUSHI BEERとして新たな形で届けられている。
「美味しいものは、ずっと続く」
30年前に作ったビールのベースは、今も変わっていない。なぜなら、本物だから。
雑菌ゼロ、瓶内発酵、妥協しない品質管理。「自分で考えてプラントを作るか、言われるままに作るか。その差だけですよ」と宇佐美社長は語る。
本物を作り続ける企業は、ずっと続く。新潟麦酒が30年以上かけて証明してきたことだ。
「ビールって生物的には別になくても生きていける、不必要なものかもしれないんですけど、心から酒づくりを楽しんでいる人たちがいる。酒づくりは人間が人間らしく生きるためのものなんじゃないかと思うんです」。
宇佐美社長の夢はまだまだ広く果てしない未知の未来へと続いていく。
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